1. HOME >
  2. 研究トピックス >
  3. 水質変成鉱物 方解石(炭酸カルシウム結晶)の新しい衝撃指標を確立―水を含む天体の衝突の歴史を紐解く辞書―
研究トピックス
2022/06/15 投稿

水質変成鉱物 方解石(炭酸カルシウム結晶)の新しい衝撃指標を確立―水を含む天体の衝突の歴史を紐解く辞書―

 我々が普段目にする岩石は鉱物が固まってできた集合体です。宇宙から飛来し、地球上で発見された岩石が隕石です。多くの隕石は「歪んだ鉱物組織」を含んでいます。これは「衝撃変成組織」と呼ばれ、その隕石が元となる天体(母天体)上で過去に経験した天体衝突の証拠です。天体衝突の条件と生成される衝撃変成組織の関係が明らかであれば、衝撃変成組織から「過去の太陽系でどんな天体衝突が起きていたのか? 」その動的な姿を蘇らせることができます。そのためには衝撃変成組織を読み解くための「辞書」が必要です。
 2020年末にはやぶさ2が小惑星リュウグウの試料を持ち帰り、現在も詳細な分析が行われています。また2023年には米国のオサイリスレックス探査機が小惑星ベンヌの試料を持ち帰る予定です。これまでの結果から、小惑星リュウグウの岩石は水と有機物を多く含む炭素質隕石に近く、過去に鉱物と水の反応(水質変成)を受けていることがわかってきました。現状では水質変成を受けた鉱物の衝撃変成組織についてはあまり調べられていませんでした。水質変成の結果として生成される鉱物の一つに方解石(炭酸カルシウム)があります。方解石はリュウグウ試料中に含まれていました。またベンヌの表面には炭酸塩の鉱脈が露出していることがわかっており、ベンヌ試料にも方解石が含まれている可能性があります。方解石の衝撃変成についてはごく弱い衝撃(5千気圧未満)、もしくは非常に強い衝撃(20万気圧)についてのみ知られていました。その中間の衝撃データを取得し、方解石についての辞書の記載を完成させることが必要でした。
 衝撃変成組織を調べる実験手法は3つ提案されていますが、そのいずれにも問題点があり、時間的にも費用的にもコストが高く、多くの実験データを短期間で取得することは困難でした。千葉工業大学 惑星探査研究センターの黒澤耕介上席研究員を中心とする研究チーム(千葉工業大学、岡山理科大学、大阪大学、海洋研究開発機構、東京大学、東京工業大学、高知大学、広島大学)は先行研究の弱点を克服し、効率のよいデータ蓄積を可能にする新しい実験手法を開発しました。イタリア カッラーラ産の良質な大理石(方解石のかたまり)を用いて衝撃実験を実施(図)し、回収試料を偏光顕微鏡、X線マイクロCT、 微小部X線回折法を用いて詳細に観察しました。大理石が経験した衝撃圧力は衝突実験と同条件で数値衝突計算を実施し推定しました。その結果、3万気圧を超える衝撃圧力が加わった場合に方解石粒子の大部分が「波状消光」と呼ばれる不均質な光学的特徴を示すことを確かめました。
 更に研究チームは典型的な隕石母天体の衝突破壊を想定した数値衝突計算結果(注4)を解析しました。この計算では直径100 kmの母天体に直径20 kmの天体が秒速5 kmで衝突させ3万気圧を超える衝撃圧力が加わる領域の広さを調べました。波状消光を示すような粒子が発生する領域は、衝突点からおよそ30 km程度の領域に限られることがわかりました。現時点ではまだ調べられていませんが、もし仮にリュウグウ試料中の方解石が波状消光を示した場合、地球に持ち帰られた試料の少なくとも一部はリュウグウ母天体の30 kmより浅いところにあった可能性が高いといえるでしょう。このような議論はリュウグウ試料だけでなく、ベンヌ試料や炭素質隕石の分析にも適用できます。研究チームの黒澤、三河内、富岡、玄田はリュウグウ試料の初期分析チームに所属しています。本実験で得られた知見を、リュウグウ試料の分析結果を解釈する際に提供する予定です。
成果はアメリカ地球物理学連合が発行する「Journal of Geophysical Research Planets」の6月2日付け電子版に掲載されました。

図.
(a) 今回用いた実験試料の写真。イタリア カラーラ産の大理石を直径30 mm、長さ24 mmの円柱形状に加工して使用しました。この大理石は100–300ミクロンほどの方解石粒子がほとんど隙間を含まずに固結している良質な岩石(堆積岩)です。円柱試料をチタン製の金属コンテナに封入してチタン製の前蓋で閉じ真空チャンバ内に配置しました。その後、二段式軽ガス衝撃銃で加速した高速飛翔体をチタン前蓋に衝突させることによって大理石試料に衝撃波を作用させました。飛翔体は直径5 mmのポリカーボネートです。
(b) 千葉工業大学に設置されている二段式軽ガス衝撃銃の写真です。

Related links

〈共同リリース機関HP〉

本件に関する問い合わせ先

大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻
助教 境家 達弘(さかいや たつひろ)
TEL:06-6850-5794   FAX:06-6850-5480
E-mail: tsakaiya@ess.sci.osaka-u.ac.jp